シティ・オブ・ロンドン蒸溜所を見学してきた|金融街の地下で生まれるクラフトジン【ロンドン訪問記】
ロンドン蒸溜所めぐりの第2弾は、金融街の路地裏にあるマイクロディスティラリー、シティ・オブ・ロンドン・ディスティラリー(City of London Distillery)。筆者がロンドンで最初に扉を叩いた蒸溜所であり、いま振り返ると、筆者の「おいしく飲む」観をいちばん変えた場所です。
ここも見学の一部始終(名前つきの蒸溜器、白雪姫の七人の小人にちなんだ小型蒸溜器、4種のテイスティング)は拙著『Gin ジンのすべて』(旭屋出版)のロンドンジンの章に書きました。なのでこの記事では本と同じ話はせず、当時の写真と、この蒸溜所が筆者に残したものの話をします。
30秒でわかるシティ・オブ・ロンドン蒸溜所
- セントポール大聖堂近く、Bride Laneの地下にあるバー併設の蒸溜所。創業2012年
- ジンの質に定評があり、スロージンは国際コンペで金賞・銀賞を受賞
- 見学・テイスティング・蒸溜体験・小ロットのオリジナルジン製造まで受け付ける開かれた姿勢(当時:見学£10〜蒸溜体験£125)
- 見学記の完全版は拙著『Gin ジンのすべて』Chapter 04に収録
スーツの街の地下で

夜、帰りぎわに撮った入口。昼間はスーツの人波が流れる金融街の路地が、この時間はしんと静まって、緑の扉だけがぽつんと灯っています。「シティ・オブ・ロンドン」の頭文字をとるとC.O.L.D。ジンは冷やして飲む酒ですから、よくできた略称です。

バーの奥、ガラスの向こうに鎮座する銅の蒸溜器。この蒸溜所では蒸溜器が「見せる装置」としてデザインに組み込まれていて、カクテルを飲みながら、その酒が生まれた釜を眺められます。ちなみに銅板の「Carl」は蒸溜器の名前ではなくドイツの老舗メーカー名。彼女たち自身の名前は、本のほうでご確認ください(ヒント:2基とも女性名です)。

ツアー後に居座って飲んだバー。この写真、よく見るとカウンターにキュウリが丸ごと一本転がっています。もちろんヘンドリックス用。ロンドンのジンバーでは、キュウリは果物ナイフと同じ「商売道具」なのだと妙に感心した一枚です。ここでマティーニ、ネグローニ、マルティネスと飲み進めた夜については……本のほうに少しだけ書きました。

その夜の一杯がこちら。キャンドルの灯りに、クーペグラスとレモンツイスト。自分たちの蒸溜器で造ったジンを、その真横で一番おいしい形にして出す。バー併設の蒸溜所にしかできない贅沢です。
この蒸溜所が筆者に残したもの
席に着いた筆者に最初に出てきた一杯は、ライムではなくピンクグレープフルーツのジントニックでした。「ジントニック=ライム」としか思っていなかった当時の筆者には、これが静かな事件でした。

当時のメニューも残しておきます。ジントニックは£8.50。10年前のロンドンの物価の記録としても、いま見返すと味わい深い一枚です。

テイスティングはこの銅の卓で。4種のジンを飲み比べた中身は本に書きましたが、この卓の空気の良さは写真のほうが伝わると思います。
以来10年、筆者の家ではジンごとに柑橘を替えるのが標準になりました。華やか系のジンにはピンクグレープフルーツ、柑橘がボタニカルの主役ならその柑橘を、クラシックなドライジンにはキリッとライム、という具合です。ルールはひとつ、「そのジンの香りと喧嘩させない」。この遊びの原点が、遅刻して駆け込んだ日に出てきたあの一杯でした。人生を変える一杯は、意外とウェルカムドリンクだったりします。
あれから10年、2026年のいま思うこと
2015年の筆者にとって、「バーの奥でジンが生まれる」のは飛行機に乗らないと見られない未来の風景でした。それから10年。日本各地に蒸溜所併設のバーやショップが生まれ、あの日ロンドンの地下で見た光景は、いまや週末の小旅行で出会えるものになりました。
ピンクグレープフルーツのジントニックも、梅酒によく似たスロージン(この「イギリス版梅酒」の話も本に書きました)も、当時の日本では珍しかったのに、いまではすっかり見かけるようになりました。小さな蒸溜所は時代の半歩先を見せてくれる場所なのだと、この蒸溜所で教わりました。
フォトギャラリー
本文に載せきれなかった写真を、まとめてどうぞ(すべて筆者撮影)。






名前つきの蒸溜器の正体、白雪姫の七人の小人、4種テイスティングと幻のオールドトムの話。見学記の完全版は拙著『Gin ジンのすべて』(旭屋出版)Chapter 04でどうぞ。書籍の詳細はプロフィールへ。
ロンドン蒸溜所めぐり、第1弾は「ビーフィーター編」、最終回は「ジンスティテュート編」。ジンの基礎は「ジンとはどんなお酒?」でどうぞ。
